政府は、3月13日、成年年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案を閣議決定しました。2022年4月1日の施行を目指すそうです。併せて、女性の婚姻できる年齢は16歳から18歳に引き上げます。一方、成年年齢を引き下げても、飲酒や喫煙、ギャンブルは、20歳未満の者には認められません。
民法の成年年齢が引き下がると、高校3年生となってから誕生日を迎えた者が順次成人となり、親権者がいなくなるので、親の同意なく、自分の判断で契約することができます。反面、経験や判断力不足につけ込まれて契約をしてしまい、「失敗した!」と思っても、原則として、その契約に拘束されます。高校を卒業して新生活を迎える場合、進学しても就職しても、住まいの賃貸借契約をはじめとする新生活のための契約は、全て、自己責任となります。
養育費は、親権とは関係ありませんが、現在、離婚に伴う養育費の支払いが「成人に達するまで」とされることが少なくないことから、今後は、18歳になるまでとされてしまう可能性も危惧されています。
消費者被害案件を多く扱い、若年者が社会経験や判断力の乏しさにつけ込まれて、不当に不利益な契約を締結させられている現状を見ている私たちは、18~19歳に限らず、若年者が、不当に不利益を受けないようなルールを作りたいと考えています。まして、私たち現在の大人は、自分たちは未成年者取消権により保護されてきたにもかかわらず、将来を担う18~19歳の若者から未成年者取消権を奪おうとしているのですから、これを奪うのであれば、これに代わる代替措置を講じるのが政府をはじめとする私たち大人の責任です。
政府は、18~19歳の若年者から未成年者取消権を奪う代替措置として、消費者契約法を改正すると言います。
代替措置としての消費者契約法の改正案は、以下のとおりです。
第4条第3項
第4号 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、次に掲げる事項に対す
る願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあお
り、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合で
ないのに、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当
該願望を実現するために必要である旨を告げること。
イ 進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項
ロ 容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項
第5号 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結
について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、
当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信
していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ
当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。
マスコミは、消費者契約法の改正について、若者が恋愛感情につけ込まれた「デート商法」などを取り消せるようにする内容だと説明していますが、この条文を読めば、とんでもない誤導であることがわかります。この改正案では、デート商法で契約が取り消せるのは、相手が、「契約をしなければ、関係が破綻することになる旨を告げる」ことが要件となっています。しかし、実際に行われているデート商法の被害は、好意を抱いている相手の勧誘に対し、契約をすれば一層好意をもってくれるのではないか、あるいは、断ったら嫌われるのではないかとか、契約することが相手のためになるなら、との思いから契約をするのであり、契約しなければ関係を絶つ、などと言われることはほとんどありません。このような通常あり得ない事態を想定し、そのような場合でなければ取り消せないとするのは、消費者を馬鹿にしているとしか思えません。
なお、話は変わりますが、改正案のように「社会生活上の経験が乏しい」ことを取消しの要件とすると、例えば、社会生活上の経験は豊かだが恋愛経験には乏しい高齢者が、デート商法に騙されても救われないことになってしまいます。高齢化社会を見据えて、高齢者の消費者被害への対応という法改正の当初の目的からも大きく、脱線した改正案となっています。したがって、現実社会を見据えると、改正案としては、「社会生活上の経験の乏しさ」を削除すべきだろうと思います。取消要件としても、それで、十分明確なように思われます。
また、実は、成年年齢が引き下がることから生じる弊害について、多くの国民は、これを知りません。当事者となる親や高校の教師も知りません。国民に法改正の意味が理解されないまま改正されることがあってはならないと思います。18歳になったら成人式をどうしょうとか、法律が施行されたときに、18歳~20歳の者が一同に成人になるので、成人式の会場をどうしたらよいか、などという心配は、成年年齢引き下げという大問題の前には、極めて些末な心配に過ぎません。
いずれにしても、成年年齢を18歳に引き下げるのであれば、これに伴い発生が危惧される弊害への十分な対応策を検討し、それを実現しなければなりません。それが出来ないのであれば、まだ引き下げの環境が整っていないとして、先送りすべきではないでしょうか。